永遠とひどく似ている
「こちらが司書からの?」
「二人同時らしい」
人気の無い図書館の一室、窓際に設えられた机の上には、小箱が二つ。
微かに首を傾け、小箱を視線で示した川端に、向かいに掛けた横光が、頷きながら答える。
「それは、嬉しいですね」
「ああ――こちらが手前、そちらが川端のものだそうだ」
「ありがとうございます」
図書館に集う文士には、戦場の道具として、各々に指環が支給されているが、デザインの優秀さからか、普段使いとしての指環の要望の声も高い。結果、折を見て各文士達の指環が作られる事となり、そして今回、新感覚派二人の指環が同時に作られる運びとなった。
「試作品の確認をと、問題が無ければそのまま進呈してくれるそうだ」
「太っ腹ですね」
軽口を言いつつ、開いた小箱に収まる指環は、デザインこそ違うものの、土台となる金属は同じピンクゴールド。その薄く輝く薔薇色は、昨年の暮れ二人が師匠と共に開けた、シャンパンの色を彷彿とさせる。
「この石の並び、真っ直ぐで、迷い無く……貴方に、よく似ています」
「こちらは、どうだろう……ああ、貴方の積もる言葉がこの石なら、この意匠は納得だ」
「光栄ですね」
試作品として手元に届けられたそれは、普段支給されている物と変わりなかったが、戦場で付ける互いの指環を改めて見る機会はあまりない。箱に入れられた互いの指環を示しながら、二人で目を細め笑いあう。
「――利一、手を」
ひとしきり互いの指環を眺めた後、川端は声を掛けながら、横光の左手を取った。小箱から取り出した自分の指環を、横光の指に滑らせる。横光の左の薬指に、ピンクゴールドの薔薇色が咲いた。
「エンゲージ、ですよ……受けて、くれますか」
指環の嵌められた自分の薬指と、向かいの盟友の顔を交互に眺める横光に、川端は淡く笑う。
「……次が、あるのなら、また貴方と」
「なるほど」
短い単語のみだったが、長年添った言葉とその視線から、友人の微かな悪戯心と、切実な想望を読み取った横光は、こちらも穏やかに口元を緩めた。
「手前からも、良いだろうか」
「ええ、勿論です」
川端の指に、横光の実直な言葉を再現した指環が、するりと通る。互いの薬指に揃いの薔薇色、それぞれの文体を示す様な石の並び。
「川端には手前の、手前には川端の石か」
「ええ、契約成立ですよ」
「ああ、確かに」
まるで少女のような、密やかな二つの笑いが部屋の中に満ちる。どちらからともなく重ねられた二つの環は、辿ってゆくたび互いの指を経由し、同じ所へ還ってくる。
それはまるで――
公式から新感覚の指環が出たのでカッとなって書いた。
イメージとしては、川横で百合…というよりS(エス)楽しかったです…