1980年:とある大学生のインタビュー録音
ノイズがあり、聴き取り難い箇所がある。
――あ、うん。もう良いのね?…わかった。
私の実家はちょっと田舎の方でね
ああ、田舎って言っても、ちゃんとスーパーも本屋もあるのよ、本当に
ただ、映画館とか流行りの服なんかは、隣町まで車を出してもらわないと
いけないくらいの…わかる?あ、そうか知ってるものね。
で、その町の裏手からほとんど使われてない道があって
そこをしばらく行くと、結構広い空き地があるの。ええ、そこよ。
そこにはお化けが出るって噂だったけど、子供は気にしてなかった
どうせ、早く帰ってくるように、っていう親の脅しだと思っていたし。
――その日は11月の終わりで
前日にちらちら降っていた雪がうっすら積ってた。
10歳の私は、その日も友達3人と、午後から空き地で遊んでたわ
ほら、雪の上に足跡をつけるの、楽しいじゃない。ね
で、そのうち2人は先に帰って、私ともう1人になった
しばらく2人で遊んだ頃、また雪が降り出して…
雪の日は暗くなるのが早いわ、さすがにちょっと怖くなって
いつもより早い時間だけど、家に戻ることにしたの。
しばらく歩いて…たぶん、まだ空き地よりね。
道から少し入ったところ――道から2、3歩くらいのすぐのところよ
木立の間に、誰か立っているのに気づいたの。
近づきながら見ると、たぶん金髪の女のひとだった
ええ、一緒に歩いていた友達も気づいていたみたい。
うーん、子供が見た印象だから…そうね19歳から25歳くらい?
ちょっと自信がないわ。
はじめは、パーティか何かでこっそり待ち合わせをしてるかと思ったのよ
ちょっと古風なドレスで、手元には編み途中の花冠を持ってたから。
でも、通り過ぎる間に妙なことに気付いた。
横目で見た彼女の服装は、どう見ても春物で薄手だった
雪が降る日よ、いくらパーティ衣装だからって上着なしじゃ
普通にしていられないと思うわ。
――それに足元。雪が積もっているのに、どういうわけか、彼女の足元には
花が咲いてるのが見えたのよ。不思議でしょ?
え、容姿?うーん…そうね美人でも、不美人でもない。
ほら、よく居るじゃない、クラスで4、5番目くらいに可愛い子。
すごく怖いとか、そういう感じでは無かったわ
映画の幽霊みたいに、透けてるわけでもなく
刃物や何かを持ってる様子も無かったし。
ただ、静かに微笑んでた。そう、モナリザみたいに
良く分からない、不思議な笑い方だった。
その後も、何度か彼女を見たわ
季節も、天気も関係なかった。
夏の暑い日だったり、大雨の日だったり
春の花の季節には、全然違和感がなかったから
彼女はやっぱり、春の花の妖精だったのかしら?
……いいえ、やっぱり違う。
小さい頃はそう思おうとしていたけれど、子供心にも分かってた
彼女の雰囲気は、そんな絵本に出てくるような、楽しい感じゃなかったわ
ええ?うーん、なかなか説明は難しいわね。
まあ、彼女に会いに行くんでしょう?
運良く会えれば、きっと解るわ。
――これでいいかしら?
こちらこそ、ありがとう。ちょっと有名人になった気分で嬉しかった。
何か分かったら教えてね。報告、楽しみにしてる。